ARMORED CORE 3 -After that-
ナガツキ
この方は第2350回目(12/17 16:24)の作者です。
『Promised Sky』
昔の話である。
「隊長ォ!! ここはもうダメですぜ!!」
「コルス隊長!! 撤退しましょう! 早く!」
「うっせぇなぁ!! しんがりはあたしがつとめっから、とっとと逃げろって言ってんだろ!! お前ら!!」
悲鳴にも似た部下の進言を、女はそれ以上の大声で怒鳴り返した。
「でも隊長一人を残すわけには……!!」
「お前らには言語理解能力がねぇのか! いいから行け!! 行けって言ってんだろがッッ!!」
「ですが!! あの軍勢相手じゃいくらコルス隊長でも……!!」
「行かねぇ奴はあたしが殺す!!」
上官である女のその一言に、部下達は言葉を失う。女がフッと自嘲した。
「……あたしゃ、お前達を殺したくねぇし、今死なれてほしくもねぇ……。だから今は逃げろ」
「コルス隊長……」
「隊長……」
「了解……しました」
「よし。分かったなら行け!!」
「隊長、絶対死なないで下さいよ」
「もしコルス隊長が死んだら、あたしも死にますからね!!」
「ご武運を祈ってますぜ、隊長」
「おう」
女は、部下達が離脱していくのを確認してから、目の前のMTの軍勢を強く見据えた。
さて……。
その絶望的ともいえる軍勢を前に、何が可笑しいのか、女は不敵な笑みで口の両端を吊り上がらせる。
「さぁ、殺してみろよ……」
女の瞼が限界まで見開かれる。
「あたしを殺してみやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
咆哮とともに、女はたったMT一機で敵の軍勢に突っ込んでいった。
昔の話である。
layer:64
【死の先に待つもの】
+ + +
「まったく、最近やたらと出動が多くて参りますわ」
ACと思われるコックピットの中で、それとはまったく不釣合いな幼い少女が不満そうな表情で肩をすくめた。
「それも、いつもあなたと一緒ですし……。まぁラセンスも一緒ですから幾分かましですが」
少女が先程から話しかけている相手は、隣のハンガーに固定されているカスタムACのパイロットの女……なのだが、返事はいっこうに無い。
「ふぅ……。これではジャミルに会いに行くこともままなりませんわ………ってぇ!」
ラサドはついに声を荒げる。
「ラフォス! 聞いてらっしゃるの!?」
「ん……?」
かったるそうに返事をするラフォス。
「わたくし一人で喋っていては、ただのお馬鹿ですわ!!」
「ラサド、俺は聞いていた」
そこへラセンスが割り込んでくる。が。
「ラセンス! あなたに話してはおりませんわ!!」
「すまん」
「……聞いてるよ。寝てたけど……」
「キィィィィッッ!! 聞くのか寝るのかどっちかになさい!!」
「ラサド、寝ていては聞くことが出来ないと思うが?」
「ラセンス! あなたに話してはおりませんわ!!」
「すまん」
「ラフォス!」
「……」
「……あなたが黙っていると、気味悪いですわね……」
「黙っていようがいまいが、あたしの勝手だろ」
「……。と、とにかく、そろそろ作戦領域ですわ。準備なさい」
「ケッ……」
「ラセンスも、よろしいですわね?」
「了解した」
程なくして、輸送機の後部ハッチが開く。そこからラサドの機体ジェオセイレン、ラセンスのエンデリッハが地上にある企業の施設に降下していく。
そして最後にラフォスのアーシェネイトが降下する。しかしラフォスはすぐには降下せず、眼下に広がる荒野を眺める。
何も感じやしねぇ……。
「あたしは今日も死ねねぇのか」
フンッと鼻を鳴らし、ラフォスは機体を進め、輸送機から降下した。
三機のカスタムACが施設に着地すると、数機のMTがこちらに反応を示した。
「ラセンス、あなたはわたくしと共に施設内部へ侵入しますわ。ラフォス、あなたはその辺で好き勝手に暴れていてくださいな」
「……おぅ」
「え?」
ラフォスのやる気の無い返事に、ラサドはきょとんとなった。
おかしいですわ……。いつものラフォスなら「何勝手に命令してやがんだ、このガキ!」とか言ってきそうなものですのに。って、わたくしはガキじゃありませんわ!
「ラフォス? 聞いてらっしゃるの?」
「聞いてるよ。その辺の奴らをぶっ殺してりゃいいんだろ」
「ぶっ殺しだなんて汚い言い方ですが、その通りです。ぶっ殺していてください」
「ラサドも言っているぞ。ぶっ殺しと」
「ラセンス?」
「なんでもない」
「とにかく作戦開始ですわ! ついてらっしゃい、ラセンス!」
「了解した」
ラサドの掛け声に、相変わらずの抑揚の無い声で返事をするラセンス。と同時に、ジェオセイレンとエンデリッハのセンサーアイが強く輝く。ジェオセイレンがブースタを噴かして施設入り口へと移動を開始する。それに追従する形でエンデリッハが後に続いた。
施設に近づこうとする二機にMTが接近してくる。しかしもちろん。
「邪魔ですわ!」
「邪魔だ」
ラサドは右腕に積まれている大型バズーカで、ラセンスは肩のラックから抜いた打潰鋼刀『アロンダイト』で、それぞれ敵を撃破した。
ラフォスは二機が施設に入っていくまでを見送ると、視線を目の前の敵に向けた。
目の前で展開しているMT部隊は、アーシェネイトを取り囲んではいるが、警戒しているのか、攻撃をしてこないでいる。
無理も無い。彼らMT部隊の前に立つ黒い逆関節のACは、既存のパーツで組まれていないカスタムACと呼ばれるものなのだから。
そんなこちらを窺っているMT部隊を、ラフォスは冷めた目で見渡す。
てめぇらはツいてるぜ……。
ラフォスは一本の紐状の布切れを取り出す。その赤い布紐は、端と端はボロボロになってはいるものの、その色はあせていない。
ラフォスはそれの端を口にくわえ、髪を後ろに束ねて、ポニーテールに縛る。一呼吸して、敵を強く見据える。
「てめぇらは今ここで死ねるんだからな!」
ラフォスの機体、アーシェネイトが左の武器腕『ピナカ』を起こすと、そのまま横薙ぎにマシンガンの弾を撃ちばら撒く。何体かのMTが爆発、大破した。アーシェネイトは敵の群れに突っ込んでいく。
「死にたくてもなかなか死ねねぇ女がここにいるってのによぉ!!」
一機のMTが肉薄してくる。
いつからだろうか。
ラフォスは、目は敵機に向けたまま、すかさず左武器腕の兵装をチェンジさせる。メッセージウィンドウに『V.C.W.P.S ON』と表示されたのを確認すると、すぐさま左の武器腕を振り上げる。
戦闘中に性的快楽にも似たようなものを感じるようになったのは。
MTのパイロットは目の前の光景に驚愕した。先程マシンガンを放った武器腕が、青いレーザーブレードを形成していた。
だがそれは、決して戦闘行為に快感を覚えているわけではない。
「逝っちまいな」
袈裟斬りに振り下ろされたブレードは、いとも容易くMTを斬り伏せた。しかしそこへ側面から敵が迫ってくる。
ブレードの刀身を消す、その間に今度は右武器腕『サルンガ』を構える。その銃口から放たれた三本のレーザーが敵機を貫いた。
戦えば戦うほどに近づくもの。戦い続けることで迎えるもの。
ラフォスはとっさに空を見上げる。高機動型MT『ブルーオスプリー』が迫ってきていた。それに対し瞬時に判断を下し、左肩からミサイルを、しかも同時に三発発射した。
それは死。
墜落するブルーオスプリーを尻目に、ラフォスは次の標的をロックする。射線上に三体。ラフォスの口元がほころぶ。右の武器腕が変形、銃身が伸び、光を帯びる。
死。それは生の絶頂、人の果て、終わり。
ラフォスは、アーシェネイトの右腕に集められたエネルギーを一気に解き放つ。青白い光の塊が、三体ものMTを消し去った。
死こそが望み。それこそが至高の幸福。しかしその先に待つものは、更なる幸福。
作戦開始当初は乗り気でなかったラフォスだったが、そのボルテージは次第に上がっていく。右肩の中型ロケットを放つ。放たれたロケット弾は、吸い込まれるようにして遠く離れた敵機に命中した。
死に近づけば近づくほど迎えられる幸福。死ぬことで迎えられる幸福。
「おぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
右腕からレーザー、左腕からマシンガン、右肩から中型ロケット、左肩からトリプルミサイル。これらを一斉に放つ。辺り一面が火の海と化した。
そのために、そのためだけに、死を望む。
数十機ものMTを破壊しつくしたところで、敵増援部隊がやってきた。輸送機には、急な出撃要請を受けたと思われる二機のAC。しかし全く問題では無かった。ラフォスにはどうだっていいことだった。
だから、戦闘行為に快感を覚えていたのではない。戦いの先に待つ死に近づくことに、快感を覚えていた。
「ケッ……。羨ましいぜ、簡単に死ねるてめぇらがよ」
コックピット内で一人ぼやくラフォス。
気がつけば、辺りには吹き荒れる風の音しかしていなかった。アーシェネイトの前方には、つい先程までACを形成していた鉄クズが転がっていた。もちろん二機分。
ラフォスは大きく溜め息をつく。髪をほどくと、がっくりとうな垂れた。
やっぱり今日も死ねなかったな、あたしは……。でも。
女の口の両端が、ニヤリと釣り上がる。
現れた。あたしを殺せる奴が。あたしの死神が!
ラフォスの脳裏に今でも焼きつく、一人の少女。いや、少女の姿をした化け物。
その少女の名は『アイ』。狂気。戦慄。畏怖。それらを兼ね備えた少女。それがアイ。
ラフォスは忘れていない。少し前に地上で彼女と戦った時、これまでにないほどの快感を得ていたことを。
「楽しみだぜ……。アイ、次にお前とやる時がな」
死の先に待つ幸福。そのために戦い、死ぬ。それが彼女の望み。
to next layer…
終わり
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